〔ラ・ヴェンティリャ〕La Ventilla
〔ラ・ヴェンティリャ〕と名付けられた遺跡は3つあります。一般に〔ラ・ヴェンティリャ〕と言う場合、〔ラ・ヴェンティリャC〕を意味します。その250m南東に墓のない〔ラ・ヴェンティリャA〕があり、ほとんど報告はされていません。Cの南西200mに〔ラ・ヴェンティリャB〕があり、多くの墓があると記されています。
何らかの共通項目があるから、考古学者は同じ呼称をふったのでしょう。仮にそうなら、この３か所を含む広さは最低でも南北200m、東西400mになります。
〔ラ・ヴェンティリャC〕では、1992年から2004年にかけて発掘が行われています。その報告書が「Memorias del Proyecto La Ventilla by Rubén Cabrera Castro & Sergio Gómez Chávez」です。分厚く、詳細に及んでいます。
おそらくは、今現在も発掘が継続しているのでしょう。一般人は入れません。入り口1の警備のおじさんが、「俺が覚えている限り、観光客に門が開いたことはない」と言っていました。
大雑把な時代変化は以下の通りです。
１、紀元前100年〜西暦100年……出土した建築痕跡は微かだが、農業用水路も見つかっている。
２、100年〜250年……それまでの建築物のほとんどを撤去し、現存する建築物の母体が造られる。住民が激増し、都市化を受け入れて、農業も継続されるが、黒曜石やメキシコ湾岸の貝等を使った工芸品製造に活路を見出し、成功する。
３、 300年……さらなる人口増加に対応し、集合住宅のエリア拡大、宗教的棟の充実がなされる。外周壁の高さは4mに届き、発掘区画1の神殿棟のファサードが5段階の拡張がなされる。
４、378年……〔城砦〕での異変の影響は確認できず。成長が継続される。
５、550年……焼き討ちの跡はない。が、激しい略奪の跡があり、その後、多くの出入り口を石組み壁で閉鎖する。
６、時代不詳だが、壁画が多数あり、波頭や、丸と線を組み合わせた幾何学模様と、ジャガーが多い。
では、レイアウトを見てみましょう。
ここも全貌はわかりません。上の図の東側の「T型空間」は農地、広場、これから集合住宅を増設するための「ほとんど空き地」だったかもしれません。南、西、北側は民地であり、手がつけられません。もしかすると、テオティワカンで最大級の近隣集合住宅だった可能性が想像できます。
「テオティワカンのボール・マーカー」
↑↑↑at 人類学博物館。年代不詳。
昔、〔ラ・ヴェンティリャ〕の西側の牧場に住んでいた農民が、発掘中の考古学者に、「こんなもの、あったよ」と提供したのが、これです。考古学者はその場で詳細な出土箇所を尋ねましたが、「あの辺りね」とだけ答えました。その後、農民は見つかりませんでした。
これを「球儀でのボールの的」と断定するには、私は躊躇します。重そうなゴム・ボールが当たったはずの破損箇所が全然ありません。一方、テパンティトラの壁画を見直してみます。
↑↑↑テパンティトラのオリジナル、↑↑人類学博物館のレプリカ。
1〜3枚目では人々がボールと遊んでいます。4枚目と5枚目に、ボール叩きのスティックと横長の物体が描かれています。細部は異なりますが、似ています。横たわっているのが気になります。立てれば不安定ですので、普段は横にしていた、その状態を表現した、と言えなくもありません。
似た物が〔南ティカル〕で見つかっています。もう一度見てみましょう。「ティカル・マーカー／マルカドール」です。これをボール・マーカーと呼ぶ考古学者はごく少数で、今では「軍旗の石製レプリカ」とされています。
↑グアテマラ国立博物館。「ティカル・マーカー／マルカドール」。
「テオティワカンのボール・マーカー」の解体写真は見たことがないのですが、4つに分解でき、持ち運びを容易にしている、という文を読んだことがります。
球儀は、〔テパンティトラ〕では平民の遊びですが、究極には敗者／勝者が首を刎ねられる儀式もあります。全ての遺跡の球儀の性格は、その中間にあります。では、テオティワカンで想像される物語を想像してみましょう。
１、西暦100年まで、〔プレ城砦〕に常設の球儀場（建築物5）があった。
２、希望地域は〔プレ城砦〕に参加を申し込み、「地区対抗ボールゲーム」が催された。
３、各チームは選手の精鋭を送り込み、応援団も張り切っていた。
４、各地域は応援席に、地域を表明するマーカーを立てた。分解式なので、数名で〔プレ城砦〕に運び込み、組み立てた。マーカーには地域名を明示する絵文字がデザイン化されていた。
５、競技が終われば、ノー・サイドで、〔プレ城砦〕が提供するご馳走とプルケ酒で宴会が催され、明日も仲良く生きていこうという誓いが交わされた。
６、西暦100年に〔プレ城砦〕の建築物5は取り壊された。テオティワカン政府は代わりに、〔死者の通り〕中部の5つの半地下式中庭のどれかで定期的に「地区対抗ボールゲーム」を開催した。
７、住民はたいそう楽しんだ。ボールの要素を含んだ遊びに、普段から親しんだ。だから、〔テパンティトラ〕の人々が壁画に描いた。
うーん、少々、おとぎ話すぎるかな。
↑↑↑at 文化博物館。アルメナは西暦200年〜350年。鳥の置物は西暦200年〜350年。西側の牧場から出土の〔火の老神〕は西暦450年〜550年。
↑↑at 壁画博物館。階段。発掘区画3のミニチュア祭壇は、レプリカ、あるいは設計図か。
↑at 壁画博物館。シンプルさは時代が古いことを示します。
↑↑at 壁画博物館。「南側正面」？の丸と横棒の壁画。
↑at 古代メキシコ展2023東京。メタテとマノ、西暦250年〜550年。
↑↑at 古代メキシコ展2023東京。〔ラ・ヴェンティリャB〕の墓室に副葬の「気狂い鴨」。西暦250年〜350年。
↑↑↑at 古代メキシコ展2023東京。宮殿B出土の劇場型香炉は西暦350年〜550年。マスクは工芸化区域で出土、一部未完成、西暦350年〜550年。劇場型香炉は西暦350年〜450年。
絵文字の中庭 Patio of Glyphs
今のところ、絵文字を伴う中庭が見つかっているのは、テオティワカンでここだけです。西暦300年に絵文字が刻まれ、400年に新しい床に覆われたので、絵文字が見えたのは100年間となります。
42の図柄は、残念ながらどこの博物館にもレプリカさえ展示していないので、ここで紹介はできません。そのうちの8つが明らかに〔トラロック神〕を描いており、それぞれが異なる付加物をともなっており、1つはテオティワカンで唯一の全身像を描いています。
シンプルな線画の絵文字には味があり、未解読の絵文字と呼んで差し支えないと思います。net上で探してみてください。また、42個以上あったはずだと報告されていますが、総数は不詳です。
中庭床面上に赤い直線で仕切られた枠の中に、1個だけが28、連続3個が3組、そして、西側の小神殿の壁に1個だけが2つ、南西の通路の壁面に1個だけが3つ、あります。
上のレイアウト図では、絵文字はGで示してあります。1個ずつ、上下を読み取れるからです。また、赤い線で仕切られていながら、絵文字の痕跡が明確には見つからなかった箇所があります。それは、茶色の四角で示しておきました。
これらの絵文字は、それぞれ、何を意味していたのでしょうか。控えめながら、人名であるよりは地名だったのではないか、という説があります。
すぐそばの〔グレート・コンパウンド〕が市場なら、そこへ持ち込まれる交易品の数量を、持ち込む地方の呼び名の絵文字の下に、黒曜石100個なら、一個の黒曜石のかけらを置き、巻貝なら、トウモロコシなら——。いや、しかし、その後で物品出納記録をつけたはずですが、そのかけらも出土しておらず、では、記憶したのかと考えれば、記憶は曖昧になるから——。それに、地名なら、幾何学的に並べずに、最初からメソアメリカの地図にしてしまえば把握がより容易になるはずで——。いやいや、市場が近くにあるからというのが理由になるなら、〔ラ・ヴェンティリャ〕よりも〔サン・フアン川の北西複合体〕の方がふさわしいではないか——。
私の混乱はこれぐらいにしておきましょう。
